夏至幻想。

水面の裏側の世界。

梅雨の季節、舗装していない道路にはその昔、水たまりがあちこちにあった。小学校の帰りにその水たまりをじっ〜と覗き込むと、水面を境に別の似た世界があるのでは?という幻想に、子供の頃の自分は、一時期取り憑かれていた。

水面に映る青灰色の空と雲は、裏側の世界の天空なのだ。不注意で足を踏入れると向こう側に落ちて行き戻れない。そう思うと、目眩に似た意識の揺らぎに包まれる。その間、向こう側から落ちて来た「裏自分」が自分になりすましてこの世界で生活している…。「お母さん!、そいつはボクじゃないのだよ!」声を上げるが何故か聴こえていない。自分に気付かない母…。

 

本当にそうなりそうで、水たまりをゆっくり避けながらの、妙に長い道草の帰路だった。たいてい傘を何処かの道端に置き忘れてる。翌日、地域の人が傘の名前を見たのか学校に届けてくれていた。…ったく。

 

そういう思いは自分だけかと思ったら、後年、天沢退二郎著の、光車よまわれ!』という物語に出会った時、「わっ、自分だけじゃなかったのだ」と嬉しく思う。そして、その鮮烈なイメージの豊さに驚いた。この世と天地が逆の世界が、ある日、大水とともにこちらの世界を攻めて来る…。地霊文字、闇側の異世界、夜間図書館…、迫り来る「闇の力」対抗するこどもたち。力を宿す、燦然と輝く回転する光車!

「指輪物語」や「ゲド戦記」等、世界の名だたるファンタジーにも全く引けを取らない日本児童幻想文学の金字塔、純国産暗黒ファンタジーだと思う。夏至も近い西果ての地の夕方は、何時までも明るく何処かミステリアスだ。誰そ彼の逢魔時。現実とは思いの外、確固たる世界ではないのかもしれない。そう思わせるトワイライト(薄明)な一刻が、そこにはある。

 

イメージ曲:『空と雲』/ 四人囃子(1974)

本日もご訪問ありがとうございます。それでも良い事がありますように!

 

 

コメント: 2
  • #2

    planetary-n (木曜日, 23 6月 2011 22:55)


    美乱調さん、書き込みありがとうございます!

    「光と闇の対立! 二元論思考は暗黒への蟻地獄」その通り、おっしゃる通りですね。ブログでの言葉が足りませんでしたが、同書巻末の「作者おぼえがき」には、

    「…この物語は、一応、いわゆる本格ファンタジーをめざすものとして、善悪二元論を足場にしようとしている。しかし、じつは、このニ元論はもうなりたたない。この物語においても、そのような足場自体が、あきらかにくずれてゆくさまをこらんいただきたい。」

    と、あります。

    ストーリーは、作者がここで明記してるいるように、単純な二元論には収まらず不思議な余韻に包まれつつ終息して行きます。そのあたりが、大人が読んでも面白い日本屈指の本格ファンタジーたる所以ですね。

    何が善で何が悪なのか? それはつねに相対的ですし、太極図のように、善なるものの中にある悪、悪なるものの中にある善…、その構造は、そう単純ではなく、「双対構造」のようにも見えますね。どちらも同じところを故郷としてるとも言えると思います。

    今回のブログ、実はイメージBGMの、日本を代表するプログレッシヴロックバンド、「四人囃子」の、そのクオリティ高い音楽を紹介したくて書いたようなものなのです。

    この曲が入ったアルバム『一触即発』は、ご存知の通り、その当時としては非常に完成度が高く、洋楽と比べても聴くに耐え得るものでした。森園勝敏氏の透明感のあるギターがアルバム全体に独特の空気感を醸し出してます。

    どれも良い曲ばかりなのですが、その中でも楽曲『空と雲』の持つ、冷ややかな気配が、初夏〜梅雨の季節には気持ち良いです。

    この曲のイメージに合う小説は?と考えてると、稲生平太郎著、『アクアリウムの夜』や、乙一著の『夏と花火と私の死体』等が浮かびました。どの作品も、一筋縄では行かない名作でそれぞれ独特の気配がありますが、共通するイメージとして、昭和、郊外の町、宮澤賢治的にも通底する世界…。がありそうです。

    その中でも、この『光車よまわれ!』はずっと入手困難の時期もあったりで、もはや伝説のファンタジーと言われていました。(2008年初文庫化)

    少し大げさデスガ、この世界が終わってしまう前に読んでおきたい本、聴いておきたい音楽、を、自分なりに紹介したい気持ちがあります。しかし、それらを単独で紹介するのはなんだかツマラナイ。その思いをカタチにする試作的ブログになりました。

    ジョニ・ミッチェルの、"Both Sides Now" 引用まことにありがとうございました。
    『青春の光と影』が、そういう歌詞の歌だとは、今まで知りませんでした。ご紹介感謝します。
    ありがとうございます。

  • #1

    美乱調 (木曜日, 23 6月 2011 10:34)

    光と闇の対立! 二元論思考は暗黒への蟻地獄。
    水たまりの合わせ鏡。境界を超えろ♪ そこ映る空の雲が...

    "Both Sides Now" by Joni Mitchell

    Rows and flows of angel hair
    And ice cream castles in the air
    And feather canyons ev'rywhere
    I've looked at clouds that way

    I've looked at life from both sides now
    From win and lose and still somehow
    It's life's illusions I recall
    I really don't know life at all
    I've looked at life from both sides now
    From up and down, and still somehow
    It's life's illusions I recall
    I really don't know life at all

    http://www.youtube.com/watch?v=v9j_j-cUwKc&feature=related