巡り逢う「ドクラマグラ」な夜

2012水族館劇場博多公演第2日目観劇覚書

120526(土)晴れ 午後3時少し前。自分は福岡市東区の地下鉄箱崎九大前改札口で、もうすぐやって来る市内に住む旧友Nを待っている。会うのは正月以来だ。Nは程なく現れた。「やぁ~、じゃあ、行こうか~」と、九大側の出口へと向かう。Nとは高校時代、同じ美術部の同級生。もう37年位の付き合い。互いにワケ知りのところもあり、少なめに言葉を交わした後はテレバシーで会話する(ウソです)。

自分たちが向かおうとしてるのは、九州大学総合研究博物館第一分館倉庫。そこで開催されている「場を超えるー水族館劇場展ー星澄ム郷から」を見に行く為だ。今宵、博多埠頭に突如作られた特設野外劇場「蜃気楼劇場」にて催される水族館劇場の芝居を、より楽しむ為にやって来た。

 

他の用事があったせいもあって来福した自分だが、今回は、先のブログで紹介したように、熱心なお誘いがあり、その誘った友人を喜ばせたい気持もあってやって来た。博多はかつて住んでいたとは言え、今はそうそう煩雑には来れない。なので、来た時は後悔しないように精一杯過ごしたい。
         
          
     1、九州大学総合研究博物館解説ツアー
   
 
キャンパスの一角に見つけた会場、というかポスターのある倉庫に入ったら、丁度、この九大博物館のバックヤードツアー(無料)が、まさに始まったばかりの時刻だった。この九大博物館では、日頃一般の人は目にする事が出来ない貴重な収集品等を、専門家の解説付で不定期にツアーをやってるそうなのだ。たまたま行った日がその日その時間。私共は日頃の行ないが良いので何時だってラッキー! 見えない存在に感謝しつつツアーに参加する。

案内されたのは、あらゆる動物の見事な骨格標本陳列室。魚から、ライオン、トラ、ダチョウ、チンパンジー、蝙蝠、等々・・・、骨格標本のみで見事に再現され収集されている。その骨格造形の不思議さ。半端でない数と種類の多さにも圧倒されるのだが、まず目につくのはそれら収集品が収まってる特注品の木製ガラス陳列棚の造形の美しさだ! 写真撮影禁止だったので画像をお見せできないのが残念だが、レトロで風格があり、さすが九州帝国大学からの歴史と貫禄を見せつけられた感じだった。

奥の部屋には、さらに驚くべき収集品! ヒトの骨格標本があった。この九州大学博物館には、3千体もの、所謂遺骨が収められているとのことだ。これらは、縄文、弥生時代の九州各地の古墳から発掘された古代人のものらしい。各遺体は通気性を考慮し、これまた特製の紙製整理箱が巨大なキャビネットに整然と収納されて入る。それがまた、ある種の美を醸し出している。

解説を頂いた当博物館副館長の岩永さんには、「昼間ここに来ている大学関係者より遺体の数の方が多く、映画『リング3D』ではないですが、さすがに夕方5時以降は独りでは来たくないですね~」等とサービス精神に溢れたコメントを聞かせて頂いた。

 

最近は夜の工場を見学するツアーだとか、近代遺産としての炭坑跡を訪ねるツアー等、以前には考えられらなかったマニアックな観光が静かに脚光を浴びてるが、ここも博物館マニアには堪らないツアーではないかと思った次第である。

ツアー内で観た膨大な鉱物標本群は圧巻!国内でもベスト3に入る充実振りなのだそう。
ツアー内で観た膨大な鉱物標本群は圧巻!国内でもベスト3に入る充実振りなのだそう。


      
  2、「場を越える ー 大水族館劇場展 ー 星澄ム郷から」


美術作品は、平面でも立体作品でも、その展覧会が街のギャラリーや美術館の予め管理されたというか、予定調和的空間で行なわれたものは、もはや食傷気味である。水族館劇場の過去の宣伝美術や舞台使用美術小道具大道具は、この機械実習工場の空間に違和感なく配置されていた。

 

何より今回の芝居の大きな題材である夢野久作の『ドグラ・マグラ(1953年)』は、九州帝国大学の医学部精神病科の独房に閉じ込められた、若き精神病患者の失われた記憶の物語とでも言う作品だ。アピールする場所としてこれ以上に相応しい場所もないだろう。

また、タイトルにある「星澄む郷」は、知ってる人は知っている稲垣足穂の小説作品タイトルである。不思議な鉱山の話なのだが、会場が鉱山関係の工作機械陳列室であること、隣接室が紫水晶を始めとする見事な一大鉱物標本コレクションの部屋であることを俯瞰してのタイトルだと思う。企画した方の豊かな感性を想像する。(たぶん、後述する津田三朗氏だと直感する)

 

さらに以下は余談で話はドンドンずれて行くのだが、この「星澄む郷」の作品から「スターカッスルの星の夜の爆発」という実に美しい組曲を、奇才あがた森魚氏が作曲している。『永遠の遠国(二十世紀完結編)(KTCR-1627/8)2枚組CD』機会があれば是非聞いて頂きたい。CD2枚目オープニング曲、鉱石ラジヲと思われるチューニング音から魅き込まれて行くハズだ。


      

           3、~そしてドグラマグラの夜が始まる~



夕方5時から、会場である博多埠頭の野外特設劇場で整理券が配られる。せっかくなら良い場所で観たい。そういう思いで箱崎九大前から一気に埠頭へ駆けつける。上手い具合に整理券を確保。その、もぎりの担当者こそ、今回熱いメッセージと共に、この催しを知らせてくれたYさん、これまた高校の同級生だ。「やぁ~、来たよ~」暫くYさんとNと歓談。

 

そのうち、「◯◯さん!」と、自分の名前を呼び肩を叩く人あり、振り向くと、いやはやどうしたものか!、これまた同じ高校それも美術部の後輩、福岡在住のKクンだ!「いやぁ~Kクン、久し振り~!」何がどうなってかは知らないが、今日のこの野外演劇の会場に、佐世保の高校時代の関係者が4人も! うち美術部繋がりが3人! これはもう〜楽しみなさいと言うことだと勝手に解釈し、開演前まで初夏の博多埠頭の海風を暫し楽しむ。 

夜7時、あたりが黄昏色に染まる逢魔が刻、野外劇場の回りで突然芝居が始まった。その頃にはいつの間に増えたのか多くの観客が劇場を取り巻き、今か今かと開演を待ちわびていたが、劇場前の空き地からこの芝居のプロローグが始まったのだ。一体何がどうなっているのか? 気が付けば、昭和のたぶん早い時代らしい設定で何やら話が展開して行く。

フト、意表を突く高い所から声がするかと思えば、特設劇場の遥か高見に役者は居て、観客は地上とその高見の両方を視野に入れるため自らが移動する。反対側からは、木馬に乗った女が空中を切って近づく…。ボオ〜〜〜ン、ボオ〜〜〜ン、柱時計の音があたりに鳴り響く。一体今が何時の時代でここが何処なのか? 現実なのか夢なのか? その境界がだんだんと曖昧になって行く・・・。

水族館劇場については深く知らないのだが、演劇史の中では、’60年代末から’70年代初頭の、所謂アングラ演劇系に位置づけられると思う。その代表劇団の一つ、状況劇場の野外テント芝居『河童』('78)や、『新・二都物語』('82)や、『ねじの回転』('86)や、解散後の唐組の『電子城』(’89)を観て来た自分としては、状況劇場がこの手の芝居の一つの雛形なっている。

そういう観点からすれば、状況劇場にあったスピード感はここにはない。150分という長丁場の中では間延びする時間も感じた。音楽の切れ味もいまいち。音楽において状況劇場は抜群の選曲センスと絶妙のタイミング、メリハリがあった。全体の話が分かりずらい。状況劇場も決して分かりやすいものではなかったが、それでもそれなりに何となく判ったものだ。

 

そもそも、原作である『ドグラ・マグラ』が迷宮譚のように堂々巡りの理解不可能な話なので、止むを得ないとも言えるのだが、それにしても全体を貫く象徴がいまひとつはっきりしない。

長崎の軍艦島、ダムに水没する村、筑豊の炭坑町、ミツバチのささやきに似た放射能測定機の音、原発への言及等盛り込まれているようなのだが、若干詰め込みすぎて、どれも消化不良に終わった感が否めない。もともと『ドグラ・マグラ』が、入れ子構造の話なのでで、それだけでも判りにくいのである。となれば、混沌そのものを自分はここで楽しめば良かったのかもしれない。

 

しかしながら状況劇場等を知らない世代にとっては、これは相当な衝撃の舞台だったと思う。何故ならば近代の都市空間に於いて、見事に排除されて来たものたちがここでは跋扈しているからである。細部まで凝った舞台装置のその規模の大きさ、そしてスペクタクルは他に例を見ないのでは?と思う。ひたすらスゴイ!

終演後の打ち上げもちょっとだけおつきあいさせて頂いた。今回の舞台の博多制作代表者である、津田三朗氏がたまたま近くにおられ、お話をさせて頂く機会に恵まれた。再びラッキー! 津田氏とは、実は、26〜7年前に氏を含め5人で一度飲んだ事がある。自分は当時、そういう芝居やアート系のバイブレーションだったから出逢っていたのだと思う。

津田氏はその後、福岡天神にソラリアがオープンした(1989)1F大壁面に巨大な絵をアートパフォーマンスとして作成したり、自ら劇団を主宰しつつも、造形作家、或はTV場組の朗読者として名前のクレジットを見たりする。才能ある方なので多方面にて活躍されておられるのだ。

 

今回お話して教えて頂いたのだが、今春話題になり2011年カンヌ国際広告祭金賞を受賞したドコモのCM、森の木琴では、wood engineerとして参加されているそうだ。津田氏からも「是非!、観て下さい」と言われた。(このCMは非常〜に良く出来ていマス!未見の方、必見デス!) 

 

今宵は高校時代の友がいたり、津田氏との会話で25年以上も前の自分と再びリンクしたり、これはまさに堂々巡りの目眩まし。ドグラマグラに相応しい初夏の夜であった。

 

今回このブログを書くにあたって、久し振りに『ドグラ・マグラ』を調べた。その際、ネットのヤフー知恵袋に、『ドグラ・マグラ』に関する、すこぶるオモシロイ秀逸のQ&ベストアンサーを見つけた。これを見つけただけでも良かったと思ってる。世の中には変で面白い人がいるものだ。そういう人を見つけるたびに何故か元気が湧いて来る自分だ。

 

本日もご訪問ありがとうございます。それでも良い事がありますように!

 

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